蚕(カイコ)の季節なので擬人化カイコちゃんを描きました。カイコは野生のガを人の手で数千年かけて家畜化したものです。幼虫から成虫になる段階で、絹の原料になる美しい糸を吐きます。かつての日本は養蚕業が盛んで、東北や関東甲信、南九州の地域では、理科の授業でカイコを育てる小学校もあります。
のっきーもカイコを育てたことがあります。まーーーー手間がかかるよねあれ。パンダの笹、コアラのユーカリみたいにカイコは桑の葉しか食べないから、毎日近所の桑の木から調達してくるんです。栄養のある下の方の葉っぱを採って洗って冷蔵庫で保存して、でもそれがあっという間になくなるくらいめっちゃ食うし、食った分めっちゃフンするし、桑の葉をあげる時は葉っぱをカイコの上にかぶせるように置くのが決まりなんですけど、カイコが食べて体の下に葉っぱが入り込んでしなびてきたらもう食べないし、水に濡らしたり温度が高すぎたり湿気が多いのも御法度です。少頭飼いだと全然匂わないから、こまめにお掃除しても苦にならないのは良かった。しみじみそりゃシルクは高いし、高くなくてはいけないし、セレブに買って貰わんとダメなやつだなと思いました。
カイコ関連のブログを読むとみんな「カイコかわいい!」と言っているんですが、のっきーは正直かわいいとキモイが半々くらいで、お世話をしている間はずっと寄せては返す波のように「かわいい……キモイ……かわいい……キモイ……」と感情が揺さぶられていました。イモムシとキノコの縁が遠すぎるのがいけないのかな。生物→ドメイン→界の時点でもう枝分かれしてるもんな。生物としてのありようがあまりに違うと愛着湧きにくくないですか。ちなみにイモムシと人間は生物→ドメイン→界まで一緒、ワンちゃん猫ちゃんと人間は界のその先の門→綱まで一緒です。綱あたりが万人が可愛いと思うポイントの分岐点なのかもしれない。網って哺乳網、鳥網、爬虫網、両生網などなどあるけど、哺乳網の犬猫はペットとしてメジャーだけど、両生網のカエルや爬虫網のヘビはそんなに飼う人が多くないとか、恒温動物と変温動物の違いもあるのかな。哺乳網の恒温動物の人間ウケの良さは頭ひとつ飛び抜けてますね。
カイコ、ちっちゃな手で葉っぱを一生懸命抱えてモグモグ食べる様子と、吸盤になってるモチモチあんよはかわいいと思いました。でも全体的なフォルムがイモムシなので、その形を意識してしまうと「あっ……イモムシだな……」と我にかえって負の感情が出てきてしまう。まごうことなくイモムシなんだけど、巷のイモムシにはない、人間に飼い慣らされ、ただひとつの目的の為に命の全てが調整された、ある種の機能美みたいなものは感じるかもしれない。機能美というかまとっている空気というか、のっきーが昔住んでいた田舎に養豚場があったんですが、そこの豚さん達はみんな丸々としていて粒が揃っていて大人しくて人の手なくしては生きられなくて、生物の分類ではかなり離れていても家畜化されたら雰囲気が似るんだなあと思いました。
そんなことを考えつつ飼育していたので、カイコが無事に脱皮を終えて、繭を作り始めた時は、切ないようなホッとしたような複雑な気持ちで、ずーっとまぶし(カイコが繭を作るための枠)をのぞいてました。カイコはまぶしに入ると、上に下に姿勢を変えながら糸を吐いて、ある程度吐いたら糸につかまって一息入れて、また糸を吐いて……を繰り返して繭を作っていきます。シン・ゴジラを観た時に、バンカーバスターの攻撃を受けたゴジラが東京を火の海にするシーンがあったんですけど、その様子が80%くらいカイコだった。ゴジラがのけぞりながら熱線を吐き、吐き切ったらピタリと動かなくなり、冷却とエネルギーの充填が終わるまでその場に何日も静止しているんですね。それが「繭を作ってるカイコにそっくり」と思いました。どんなに得体が知れなくても、ゴジラは生き物で、同じ生き物なら戦って勝てる道筋はあるんだという説得力に痺れた。
そんなこんなでカイコの季節にカイコを思い出し、思い出の可愛い部分を抜き出して絵にしました。擬人化って対象に対する知識とイメージがそのまんま出るから難しいですね。カイコの知識については実際に飼育したことの他に、横浜のシルクミュージアムに行ったり群馬の富岡製糸場に行ったり岩手のおしら様(カイコの神様)信仰のある地域で語り部ボランティアさんの話を聞いたりって経験があるんだけど、肝心要の養蚕業者の見学をしたことがないからそこのピースが抜けてる感じがする。昔使われていた養蚕小屋は見たことがあるけど。
カイコちゃんの色を決める時に、写真から色スポイトで体表の色を採ったら、白に桑の葉のグリーンが混じった色なのがわかって感動しました。巷にはカイコの擬人化キャラは結構溢れてるんだけど、どれも成虫をモデルにしたものばかりなので、幼虫のカイコちゃんを描きたかった。眼状紋をアイマスクにしたのがポイントです。時間があったら成虫バージョンも描こうと思います。
富岡製糸場で実際に働いていた女性が、当時を振り返って書いた本です。短めでスルスル読めます。国の管轄だった初期は日本各地の名家のお嬢さんが多数勤めていて、そのたおやかで上品な人間関係の描写が素晴らしいです。青春〜。